旅の一コマ、初めてのインド第二回目。
前回の簡単なあらすじを。
まだ若く、旅慣れてなかった私は人生初めての海外でインドに一人でやってきた。
そして空港で持ってたUSドルを全部両替してしまい、インドルピーの札束を作ってしまった。
同じ飛行機にたまたま乗ってた日本人男性に、安宿が集まるメインバザール行きのバスを見つけてもらって無事メインバザールに向かったと思いきや、降ろされた場所はどう見ても全然メインバザールとは違うところ。
「ここはどこだ!俺は一体どこにいるんだ!」
想像してみて欲しい。
全く初めての海外で、慣れない異国の地で、突然訳の分からない場所にポンと放りだされたとしたら。あなたはどうする?
当時はスマホなんてもちろんなかった時代。
インターネットはあったけどグーグルマップなんてなく、一般人はメールを使う程度。
誰かその辺を歩いてる人に道を尋ねる?
それともタクシーをつかまえる?
それともひたすら歩く?
その時私が唯一頼れたものは日本から持ってきたガイドブック、地球の歩き方だった。
ちゃんと知ってはいた。
地球の歩き方なんて見ながら歩いてたら初心者丸出しだっていうのは。
でも他にどうしようもできなかった。
なんとかして目の前に見える光景と、地球の歩き方に載ってるデリー周辺の地図とを照らし合わせようとした。
きっと、一部のインド人からしたら、この時の私の様子はカモが鍋とネギとカセットコンロと器や箸までをセットで背負ってやってきたように見えた事だろう。
歩き始めて数分した時、まだ10歳前後ぐらいの男の子が英語で「どこ行くの?」と話しかけてきた。
私は、『あらチビッコが話しかけてきた。やっぱりインド人はフレンドリーなのだな』と思い、「メインバザールまで行くんだ」と笑顔で答えた。
そしたらチビッコは、「あ、そうなんだ。僕もそこ行くところだから一緒に行こうよ」と言ってきた。
あらそれは助かるわとばかりにホッとしてチビッコに先導されるままに一緒に歩くこと5分ほど。
チビッコはいきなりビルの中に入ろうとし、「ここだよ」と言う。
そこで初めてハッと気づいた。
旅行会社に連れてこられた!・・・と。
どうりで、途中から自分の後ろを別のインド人のおっさんが歩いてついてきてると思ったー!もっと早く気付くべきだったー!
すぐに「ノーノ―」と言いながら振り返って立ち去ろうとすると、そこからはチビッコではなく、後ろからついてきていたおっさんに交代し、「ここはグッドカンパニーだ」とか言ってビルの一室に招き入れようとする。
私はひたすら「ノーノ―」を繰り返し足早に立ち去ろうと歩く。
おっさんは食い下がってあれこれ言いながらついてくる。
しばらく断りながら歩いていたら、やっと諦めたのか姿を消した。
あー良かったービックリしたー・・・と思っていたのも束の間、今度はおっさんオートリキシャというインドの簡易タクシーみたいなのに乗ってついてきた。
そしてなおも食い下がってくる。
でももう旅行会社どうこうは言って来なくなって、「わかった、お前の行きたいところにオートリキシャで連れて行ってやる」と言う。
私は「本当だろうな!」と何回も確認した。
さらに紙に ”メインバザールまで○○ルピーで行く” と念書的なメモまで書かせた。
ここまでしたらさすがに大丈夫だろうと。このおっさんは信用ならんけどここまですれば逆にこれから別のオートリキシャを捕まえるより安心じゃないかと。
そう思ってオートリキシャに乗り込んだ。
オートリキシャは、タイでいうトゥクトゥクみたいな3輪タクシー型で、座席はせいぜい3人分ぐらい。
顔に当たる風はスパイスの香りや食べ物が腐った匂いや土煙なんかが色々混ざっていて、生温かく心地いいとは感じない。
まぁそれでもやっとメインバザールに行けそうだから安堵感は湧き出てくる。
はあ~、のっけから大変だわインド。
・・・とぼんやりしてる愚かな私を乗せたオートリキシャは、まるで当たり前かのように、ものすごく自然に、私が行きたいメインバザールではなく ”にほんじんせんようトラベルカンパニー” と日本語で書かれた看板の旅行会社の前で停車した。
念書的なものまで書かせたのにインド人にはそんなもの意味無かった・・・。
テメェやっぱり違うところに連れてきてんじゃねーか!って怒る間もなく、建物の中からメガネをかけたインド人が出てきた。
そのインド人は、身なりも割と上品で明らかに他のインド人とは格が違うって感じで、驚くほど日本語がペッラペラ!
オートリキシャのドライバーは態度がさっきまでと打って変わっておどおどした態度になり、メガネインド人はオートリキシャのおっさんをちょっとの金を渡してさっと追っ払った。
その振る舞いと日本語のうまさで、少し「この人なら頼ってもいいかも」と思ってしまった。
そして愚かな私はうながされるままについオフィスの中へ・・・。
一度かかった獲物を簡単に逃すような事を奴らはしない。
オフィスに入った時点でこのカモは既にネギなどの具材と共に鍋にくべられたに等しかった。
あー、この時の自分を罵倒してやりたい!あー俺のバカバカバカバカ!普通に無視してオフィスに入らなければ良かったのに・・・!
テーブルを挟んでインド人と向い合せの椅子に座ると、あれこれ質問をされた。
いつインド来たのかとか、どこに行きたいか、とか。
今にして思えば、きっとそれらの質問はこの間抜けそうな日本人を騙すにあたり、どこまで突っ込んでいけるかのあたりをつける質問だったのだろう。
結局、こっちが何回メインバザールに行きたいと言っても、「今日メインバザールは休みだ。明日も休みだ。とにかく今夜お前はこの辺でホテルに泊まっていくしかない」という返事。
普通に考えて、ただ安宿が集まってるだけのメインバザールという通りが休みだなんて有り得ない。スーパーマーケットじゃないんだから。
でもインド人がすごいのは、そういうウソを堂々と自信満々につけること。
精神的に窮地に陥りつつあった私は段々と「もしかしたら本当にそうなのかもしれない」と思い始めてきてしまった。
しかも、私にとっては不幸な事に、私がこのメガネインド人を信用できるかも思ってしまう要因があった。
私の苗字はかなり珍しい苗字なのだが、メガネインド人は私の漢字で書かれた名前を見て、「へーこれは珍しい名前ですね」と驚いたのだ!
この苗字が珍しいとわかるなんて、この人は日本について相当詳しいぞ、「もしかしたら大丈夫なのかもしれない」、そう思ってしまった。
時刻はそろそろ夕方に差し掛かってきていた。
今から何とかここを逃げ出せたとしても、暗くなる前にメインバザールまで辿り着けるかどうか怪しい。
増々不安に駆られた私は、ついにその日のホテルをメガネインド人に頼んでしまった。
この時点で、もう完全にカモネギ鍋が煮込みあがった。
あとは食べられるだけ。
次回は、カモネギ鍋となった愚かな私がどのように食されていったかをお伝えします。
ああ苦い苦い。
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