海外へ個人旅行する時に、目的地の情報を事前に収集するにあたり、お手軽かつ頼りになるのはやはりガイドブック。
いまではネットで簡単に情報を集められるけど、いつでも手元に地図や写真や説明文があるのは心強いもの。

そのガイドブックの中で、個人旅行者に長い間根強い人気を持つのが「地球の歩き方」。
では、外国人旅行者はどんなガイドブックを持っているのだろう。
最も有名なのは「ロンリープラネット」というガイドブックだ。

地球の歩き方は大小様々な写真をふんだんに使ってるし、カラーのページばかりなので読みやすいし薄いのでそんなにかさばらない。
ロンリープラネットは写真は少なくて文章ばっかりでしかもかなり分厚いので、めっちゃ読みにくいし持ち運びにくい。
けれど、むしろロンリープラネットを使っていないのは日本人ぐらいなもんで、日本人以外の旅行者は自国の言語で出版されたロンリープラネットを持ってることが多い。

今回は、そのロンリープラネットにまつわる、奇跡的な体験のお話を。

あれは2010年頃、シンガポールinーバンコクoutの365日オープンの航空券を持って、ガイドブックは持たずに行き当たりばったりで東南アジアを旅していたとき。

私はマレーシアの首都クアラルンプールの安宿に滞在していて、そこで数人の日本人バックパッカーと会って、一緒にご飯食べに行ったり観光したりしていた。
その日本人の一人でTくんという若者がいた。
彼は中国から南下してクアラルンプールへ来ていたのだが、私がこれから北上して中国にもたぶん行くと思うと言うと、「あ、じゃあ中国の地図とかいります?オレもういらないんで」と言ってきた。

ガイドブックは持たずに旅しているものの、宿に置いてあったら目を通すし、何よりやはり地図は必要だ。
なので、「あ、じゃあもらえるなら」と答えた。
そしたら、コピーされたものではなく、ガイドブックの巻頭によくあるカラーページの地図を破ったもの数枚をTくんが渡してきた。
ありがたく受け取りながらも、「マジかよ、自分のものじゃないガイドブックから勝手に破って持ってきやがったな、そういうマナーの悪い事すんなよ、日本人として恥ずかしくねーのかやったね地図が手に入ったありがとうございます。」と思った。

それからマレーシアを離れ、タイを通り、ラオスとベトナムへ。

ラオスのルアンナムターという小さな町から、中国の景浜という小さな町を結ぶ国際バスで移動した。
初めて入国する中国。
しかも英語も通じない小さな町。
さらに悪い事に、その時体調を崩してしまっていて、めっちゃしんどい。
ひとまず少し歩いたらそこまで高くないホテルを見つけたので、シングルルームに泊まり、移動した日はずっとう~んう~ん唸りながらベッドで寝てばかりいた。

次の日、ちょっと体調良くなったので買い物と食事がてら歩いていたら驚いた。
ヒュイーンて微かな音だけで原付バイクみたいのが自分を追い越していくではないか!
ガソリンで動くエンジンではなく、電気で走る原付バイクだと!?日本にだってこんなの無いぞ!百歩譲って中国の一部の大都市だけでよく見かけるならまだしも、ここは中国の端っこの小さな町だぞ!
よく見ると、そこらを走っている原付バイクのタイプはほとんど電気モーターで、めっちゃ静かな音で走っている。
それまであった、中国人はみんな自転車で所せましと走っているというイメージはとっくに過去の話なのだなと知った。
日本と欧米諸国だけが技術が進んでいて、他の国はそれに追いついてすらいない気がしていたけど、そんなの過信だった。
2010年の時点で電気モーター原付バイクが普及していたとは。侮りがたし中国。

とりあえず一番近くの大都市へ移動しようと、昆明へバスで移動した。
夜行バスは、窓側に1列ずつ、通路挟んで真ん中に1列の3列シートで、ほぼ寝っ転がれるような体勢になれるシートだったので、ぐっすり眠れた。毛布付きだったし。
これも進んでる・・・!日本の夜行バスなんて、普通に2列2列の4列でしかもシートを倒せても少しだけだから、とてもじゃないけどぐっすり眠れないタイプばかりなのに・・・!
けど、深夜にバスが途中で停まり、公安によるIDチェックが始まった。こういう管理社会のあたりはさすが中国か。
と思っていたら、IDチェックの時、突然私の通路挟んで隣の席の女性が悲鳴を上げながらドタバタし始めた。
何だ一体?とびっくりしていたのだが、どうやら財布からお金を抜き取られている事に気づいたようだった。
マジかよ。席は隣だけど俺じゃないですよ。
というか危ねー、一歩間違ってたら俺の財布がやられるとこだった~。
さっきIDチェックしてた公安の奴らが怪しい・・・。

そんなこんなで朝に昆明に着いた。
昆明は、昨夜までいた景浜に比べたらめちゃくちゃ規模がでかくて面食らった。
しかも人の数が凄まじい。どこを見ても人ばかりいる。
だいたいバスターミナルは郊外にあるケースが多いのに、どうやってこの都市の中で安宿を探せばいいのだ・・・!

バックパックを背負い、バスターミナルを出て少し歩いてみたものの、すぐに「あ、これ(ヾノ・∀・`)ムリムリ」と思った。

どうしよう・・・。
そうだ、とりあえず全てを忘れてご飯食べることにしよう。

店内ではなく、店の前の屋外にあるテーブルに座り、小籠包みたいなのを食べながら道行く人の流れをぼんやり眺めていた。

そしたら、東欧系のような男性とアメリカ系黒人のような女性が歩いて通り過ぎていくのが見えた。
「お、外国人バックパッカーだ」とだけぼんやり思い、そのまま食べていると、数分してその二人が戻ってきて、周囲にたくさんいる中国人をスルーしながら近づいてくるではないか!
そして、私に「バスターミナルってどこか知ってる?」と英語で話しかけてきたではないか!

びっくりした。

きっと向こうも私を見かけて、「あ、アジア人のバックパッカーだ」とでも思ったのだろう、バックパッカーなら英語少しはできるだろうから聞きやすいと考えたかもしれない。
バスターミナルはすぐ近くだったので、「じゃあ案内するよ」と答え、連れて行った。

二人は次に移動する町までのチケットを購入するつもりだったので、案内板の漢字を理解できる私が窓口へ案内した。
でも二人ともバックパックを背負ってない。という事は、今はまだどこかの宿に宿泊しているはず。
私は、二人がチケットを買い終わってから、「俺いまこの街に着いたばっかりなんだけど、どこか安い宿知らない?」と訊いてみた。
そしたら「じゃあ僕らもこれから宿に戻るから、そこで良ければ一緒に行こうか」という返事。
やったー!マジ助かったー!

男の方はアメリカ在住のポーランド人で、フィリップという名前だった。
今度は私がフィリップ達に案内されながら路線バスを乗り継いで宿へ。
バスの中で、私がすぐ後ろの席にいるのに堂々とキスをするあたりさすが欧米人だ。

辿り着いた建物は、大きなビルで、グラフィックアートみたいな絵が壁一面に描かれていた。
門を開けて敷地内に入ると、卓球をやっている欧米人や、コーヒーを片手にオープンテラスでパソコンに向かう欧米人などがたくさんいて、ここだけ中国ではない別世界だった。

宿は、1棟のビルがまるごとゲストハウスになっていて、レセプションには英語もペラペラの若い賢そうな女性スタッフが何人もいた。
チェックインをする時にYHAの説明を聞き、そこで初めて中国にはYHAというユースホステルのネットワークの存在がある事を知った。
フィリップ達は、宿の中にあるカフェテリアにいるよということだったので、チェックインを終えた後自分もカフェテリアへ行って同じテーブルに座った。

軽く飲み物を飲みながらフィリップ達と会話していたが、私の英語は達者ではないので、いざそうやって面と向かうと会話に困る・・・。
気まずさを紛らわすかのようにカフェテリアを見渡すと、角に本棚があるのが目にとまった。各国のガイドブックがたくさん並んでいる。
席を立ち、ふいにそこに置いてあった中国についてのロンリープラネットを手を取って開いてみた。

「ん?」
巻頭の地図が破られていて、無い。

「・・・まさか!」

慌ててバックパックを開け、Tくんにもらった地図を探し、本棚のロンリープラネットの破られているページに合わせてみると・・・、ぴったり!

Tくんはここに泊まっていて、このロンリープラネットから地図だけ破り盗っていったのだ!

思いもかけなかった奇跡にすっかりテンションが上がった。
「こんなミラクルってあるぅ!?」と興奮気味に下手くそな英語でこの地図の経緯をフィリップ達に説明した。
けど、うまく伝わらなかったのか、二人の反応はビックリするほど薄かった・・・。

もしTくんから地図をもらわなかったら。
もし昆明に着いてすぐバスで移動していたら。
もし小籠包を店内で食べていたら。
もしフィリップ達が声をかけてくれなかったら。
もし私がガイドブックを最初から持ち歩いていたら。

何か一つでも違っていたら、こんな奇跡は起こらなかった。

こちらがフィリップと彼女さん(名前忘れた)。

危うく路頭に迷うところだったけど、フィリップ達と、フィリップ達に会えた巡り合わせに助けられた。心からありがとう。

なんだろう、不思議だな。困ってどうしようもない時にこそ何かが起こるっていうのは。

あ、そうそう。破り盗られたページ達は、きちんとあるべき場所に返してきました。


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