マレーシアとインドネシアは、言語、文化共にかなり近い。例えるならオーストラリアとニュージーランドみたいな感じ。

まず、マレーシアについてだけど、マレーシアは大きく分けて二つに分かれている。
首都クアラルンプールがあるマレー半島の国土と、ボルネオ島の北半分の国土とだ。
私のざっくりとしたイメージだと、マレー半島のマレーシアは経済や観光の色合いが強く、ボルネオ島のマレーシアは民族や特有の文化の色合いが強い。

次にインドネシアだが、インドネシアは世界で最もたくさんの島を持つ国である。なんとその数は1万を越えるという。
首都ジャカルタがあるのはジャワ島。時々地震が起こることで耳にするのがスマトラ島。小さいけれど観光で有名なバリ島。北半分をボルネオマレーシアと分けるカリマンタン島。
少しややこしいが、ボルネオ島というのはマレーシア側の呼び方で、カリマンタン島というのはインドネシア側の呼び方。

簡単にグーグルマップで確認してみよう。

シンガポールの右横にある、太ってて尻尾が短いゴジラみたいな形の島、これがボルネオ/カリマンタン島である。
なお、太ったゴジラの首筋にある点線で囲まれた部分は、ブルネイ・ダルサラームという、これまた別の国だったりする。

マレーシア ― インドネシア間の国境越えのルートはいくつかある。
今回の旅の一コマでは、そのいくつかあるルートの中で、おそらく最もマイナーなルートについて。

まずは先にルートの場所を地図で。

太ったゴジラのノドのあたりにちょうど国境線が通っている。マレーシア側にTawau(タワウ)というオレンジの楕円で囲まれた街があり、インドネシア側にはTarakan(タラカン)という島がある。
このタワウとタラカンが国境越えのルート。海なので移動手段はフェリーで。
こんなところに国境を越えるルートがあるなんて自分も全く知らなかった。
でも旅というのは何が起こるかわからないもの。

今回は、私が実際に2010年にこのルートを使って国境を渡った時の話。

2010年に東南アジアをぶらついていた私は、クアラルンプール ― クチンという航路の往復航空券を買ってボルネオ島にやってきた。

ボルネオマレーシアは横長の形をしていて、主な街は北側に横並びになっているため、次の目的地に迷う必要がない。
バスターミナルにはいくつもバス会社があって、バスにも困らない。むしろ、どのバス会社にすればよいのか困ってしまう。
次の街に着いたら安宿を探して数泊ずつしながら東に移動してきて、コタキナバルというボルネオマレーシア最大の街に着いた。
私はここで数日過ごしたらまた来た道を戻ってクチンからクアラルンプールに飛行機で戻る予定でいた。

コタキナバルから少し内陸に行くと、キナバル山というマレーシアで最も高い山がある。
標高は4092mで、世界でも有数に豊かな植生を持つ山だ。

また、コタキナバルは海に面している為、魚が食べられる屋台があったり、大きな路上マーケットがあったり、なかなか滞在してて楽しい街だった。
ある時、コタキナバルで泊まっていた安宿のコモンスペースに日本人らしき女性がいるのを見かけた。
ボルネオマレーシアで日本人に会うのは初めてだったので「こんにちは」と声をかけてみた。

その女性は自分より年上で、どうやらインドネシアのバリ島で数年働いたりして息抜きの為にボルネオマレーシアをまわってるという事だった。

ここでは仮にLさんとしよう。
Lさんはインドネシア語を少し話せるらしかった。

Lさんと晩ごはん食べに行き色々と話してるうちに、一緒にキナバル山を見に行く事になった。
それはいいんだけどそのまま東に進み、インドネシアへの国境を越えようと言われてしまった。
もうクチンからクアラルンプールまでの戻りの航空券を買ってあるからそっちから行くと航空券代を無駄にしちゃうんだよなぁ。

最初はあまり気が乗らなかったんだけど、また何本もバスを乗り継いで来た道を戻るよりかは通った事の無い道を行った方が楽しいし、こうして予定が変わってしまうのも旅の醍醐味の一つかと思い、話に乗る事にした。

こうして、Lさんと私はキナバル山ふもとの町へバスで移動し、適当な宿にチェックインし、国立公園を散策だけして、次の日タワウへと向かった。

タワウまでの道のりがまた遠かった。もう何時間かかったかも覚えていないけど、とにかくバスの中で暇だった。

タワウに着いて安宿を探し、チェックインした。Lさんがインドネシア語を話せたのはかなり心強かった。

インドネシア語とマレーシア語は全く同じではないがかなり似ているからだ。まぁマレーシア人はほとんどの人が英語を堪能に話せるからわざわざマレーシア語を使う必要もあまりないんだけど。

インドネシアまでの国境を渡るフェリーのチケットを買いに行ったら、窓口で「ビザはあるのか?」と訊かれた。

ビザ必要なの!?
知らなかった。持ってないです。

どうやらバリ島では到着した時に空港でアライバルビザを取得できるらしく、Lさんも事前にビザが必要だとは知らなかったようだ。

今日フェリーに乗るのはあきらめて、ビザを取得できる大使館的な場所を教えてもらい、ビザ取得の手続きをした。

・・・ところが。

インドネシアの職員が私にはビザ発行できるけど、Lさんにはできないと言う。
理由は、今までに長期間インドネシアに滞在し過ぎているせいだという。

通常、日本人はインドネシアの観光ビザは一ヶ月で、一定の手続きを踏めばもう1ヶ月延長できるが、最長で6ヶ月。

Lさんは過去2年間程の間に入国後何か月か延長して限界が近づいたら一度出国し、しばらくしてまた入国して延長して・・・を数回繰り返していたのだ。

私はてっきりきちんとした環境で働いてるのかと思っていたがどうやら違法就労だったようだ。
まぁバリ島にはビジネスしてる日本人多いからな。就労ビザ持ってないのに手伝わせる人、手伝う人がいてもおかしくない。

職員は違法就労しているのを見抜いている。なので発行できないと言う。

どうしてもビザが発行してほしければ、いま・ここで出国の航空券をブッキングしろと言う。

Lさんはおそらくまた知人のところで働きながらビザを延長するつもりだったのだろう。明らかに航空券をブッキングしたくなさそうだった。

普通だったら、大人しく従って航空券を買う場面だ。
大使館的な機関でトラブル起こしたら大変だから。

しかしLさんが凄かったのは、そこで少しもひるむことなく、「ギブミービザ!」と迫ったのだ!

私はたぶん口をポカンと開けて驚いただろう。そしてその後笑いがこみあげてきた。
ビザをまるでチョコレートか何かのようにねだる人初めて見たわ。

そこを面白いと感じたのは私だけじゃなかったようだ。
窓口の職員はまだ若そうで聡明そうな男性だったのだが、苦笑しながら奥へ行ったかと思うとしばらくして戻ってきて、

「オーケー、今回ビザを発給するけど、延長はダメだ。必ず1ヶ月で出国するように。それから、今夜ディナー食べ行かないか?」

と言った。
お、良かったじゃんビザくれるって・・・え?ディナー?いまディナー行こうって言った?マジで?

驚いたことに大使館的な機関の職員の人と晩ごはんに行くことになった。

約束の時間より遅れてSUVみたいな高級車に乗って職員は現れた。
Lさんはそこでも豪快に、「遅い!一時間も待たせて!」と迫る。
・・・アンタすげえわ。

職員は、何が悪くて怒られているのかわからないといった表情で、「いや、シャワー浴びたりしてたし・・・」と答えた。

職員の名前はアンジャー。アンジャーの他にもう一人アンジャーの同僚がいたけど名前は忘れてしまった。

アンジャーの車に乗り、高級そうなレストランのオープンテラスで晩ごはん。インドネシア料理うまい。

特に、デザートで出てきたピサンゴレンはめちゃ美味かった。

ピサンゴレンとは、焼きバナナのこと。
ピサンがバナナの意味で、ゴレンは焼くって意味。

ちなみに、後になってインドネシアまわってる間同じ味を探したけどここのピサンゴレンほど美味しい味が見つかることはなかった。
しかもアンジャー達がディナー代をおごってくれた。

次にカラオケ行くことに。アンジャー達が言うには、親日国であるインドネシアでその時流行っていたのはキロロだそうだ。

カラオケ行ったものの、結局あまり歌わずに話してばっかで、インドネシア語で「最高」という意味の「バグース」という言葉を教えてもらい、バグース!バグース!ばかり言って笑っていた。
アンジャー達はカラオケ代もおごってくれた。

左からLさん、アンジャー、アンジャーの同僚。Lさんは勝手に顔出しすると怒られるかもだから伏せておきます。

あ、あと、この記事を参考にして大使館でビザ発給を迫ったりしないように。間違いなくうまくいかないので。

カラオケを終え、宿まで送ってもらい、お礼を言って別れた。

とまぁ、こんな感じでインドネシアビザを取得したわけです。

しかも、インドネシアの観光ビザは普通一ヶ月が滞在期限なのに、なぜかここでは2ヶ月滞在できるビザをくれた。
激アツ。ビザ代は50USドルぐらいだったかな。

しかしまさかビザを取得しに来てこんな出来事が起こるとは予想だにしていなかった。

でもすごい楽しくていい経験になった。無事二人ともビザも取得できたし。良かった良かった。

次回は実際に国境を渡る様、そして渡った後の様子についてを。


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