いくつか存在するマレーシアからインドネシアへの国境越えのルートの中で、もしかしたら最もマイナーなんじゃないかというルートが、タワウ(マレーシア) ― タラカン(インドネシア)のルート。
このルートについての顛末は前回の記事で述べているので、興味ある方はどうぞ。

マレーシア(タワウ)からインドネシア(タラカン)へ国境越え その1<ビザ取得>



ビザを発給してもらう際、職員のアンジャーは、年間通して日本人はほとんど来ないと言っていた。
まーそうかもなー。だってクアラルンプールから遠いもん。ほとんどマレーシアの東の端っこだもの。

ビザを取得し、私とLさんは国境を渡るフェリーのチケットを買った。
ごめんなさい、もうフェリー代がいくらでどのくらい時間がかかったかちょっと忘れてしまった。

けど、はっきり覚えているのは、「ほんとにコレが国と国を繋ぐフェリーなの!?」という驚き。

フェリーは、最大乗客数30人といったところだろうか、かなりこじんまりとしたフェリーだった。
小型なクセに、それなりの波がある海をすごいスピードで進むもんだから、海面をバインバイン跳ねる。

座席は室内のはずなのになぜか水しぶきが常に降り注いでくる。
おいおい一体どっから降って来るんだ。

海が怖い私は心の中で祈っていた。
ボートがいきなり空中分解しませんように、と。
ここで溺れ死ぬのだけはまっぴらゴメンです、と。

どうだろう、体感で2時間ぐらいだったろうか。
もしかしたら実際は20分ぐらいだけだったかもしれない。

無事フェリーはインドネシアのタワウの港に着いた。あー良かった。
フェリーを降りてローカルの人について進んで行くと職員に呼び止められて私とLさんは別室に通された。
外国人だったからか荷物チェックとか簡単な質問とかされ、その後無事入国スタンプが押された。

何はともあれ、インドネシアにボーダークロッシング成功。やったぜ。

インドネシアでの私の目的地はバリだったが、タラカンはインドネシアの北東部の端っこにある島だ。
バリまではまだまだかなりの移動が必要になる。
インドネシア語が話せるLさんはタラカンからバリまで一気に飛行機で飛ぶと言う。
マレーシアほどは英語が通じないインドネシアを一人で陸路で移動してバリ島まで行けるだろうか・・・。不安だ。

私は迷った。

たまたまコタキナバルの宿で会ったLさんと一緒に飛行機でバリまで飛ぶか、一人で自力で移動するか。

でもできるだけ飛行機は使いたくなかったし、物事をお金で解決しながら楽に旅をしたくなかった。

俺は、苦労しながらでも自分の力と運で旅路を切り開いていきたかったのだ。
Lさんとはここでお別れすることにした。

さて、新しい街に着いたらまずは宿だ。
Lさんもタラカンに1泊はするつもりだった。

港を出て幹線道路まで歩いて、周りの様子をうかがった。
まぁまぁ車通りがある。
でも安宿なんてあるのかな。

・・・と思っていたら、一人の40代ぐらいの背広着た男性が立ち止まって、「ハイ、どうしたんですか?」と英語で話しかけてきた。
Lさんはそれに応対して少し会話を始めた。

今までインドなどを旅した経験から言って、話しかけたきた奴を簡単に信用してはいけないと学んでいた私はとても警戒していた。

にこやかで物腰は柔らかいし、身なりはしっかりしてるし、英語は結構話せるし、悪そうな雰囲気は無さそうだけど・・・。

んー、でもすぐ信用するのはなぁ。

Lさんが知り合いの宿に案内してくれるってと言う。んー・・・。

私は、その男の肩に手をポンと置き、「Who are you?(お前は何者だ?)」と真顔で尋ねた。

そしたら私の警戒心を理解したのか、男は笑いながら「そんなに心配しなくても大丈夫」みたいなことを言って笑った。

その笑い方を見て、「ん?まさか・・・。」と心の中に一抹の不安がよぎった。

男はパッと通りのタクシーを止めた。どうやらその知り合いの宿に連れて行ってくれるらしい。

タクシーの中でLさんはインドネシア語で自己紹介した。
私は英語で自分の名前を名乗った。
その時私はバックパッカーらしく髪もヒゲも伸ばしていたのだが、男は笑いながら「I like your face.」と私のヒゲを指さした。

・・・やはり。

さっき感じた不安が現実味を増した。
あのナヨっとした笑い方、そのセリフ。

オカマだ!

柔らかい物腰はオカマだからだったからだったのか。
いや別にLGBTなのは個人の自由だからいいんだけど。

案内されたホテルは意外にも悪くなかった。

料金はもう忘れてしまったけど、そのホテルに泊まる事にした。
さあ、寝床が確保できたら次はご飯だ。

驚いたことに、オカマはレストランの経営者だった。
オカマのレストランでチキン入りのライススープを食べた。
色々と借りを作ると後々厄介な事になりかねないので、きちんと代金は支払った。確か一人240円ぐらい。

食後、なぜか従業員がぞろぞろ集まってきて記念撮影がおこなわれた。写真右から2番目がそのオカマ。


オカマは仕事があるので別行動になり、Lさんが旅行会社にバリ島デンパザール空港までのフライトチケットを買いに行った。

Lさんができるだけ早いのが良いと頼むと、運よく明日の便が空いてて翌日のフライトチケットを買う事ができた。つくづく運のいい人だなこの人。

窓口で対応したエージェントは英語が少し話せて、Lさんだけがブッキングして私が自力でバリまで行くということに驚いていた。
お前はインドネシア語話せないのにどうやって遠く離れたバリまで行くのかと。
ま、そりゃそうだ。

そして次の日、Lさんはバリ島へ飛んで行った。

Lさんが去った後、オカマの車でホテルからオカマの自宅に移動した。
一人ならうちに泊まればいいと勧められたのだ。
「マジかよ大丈夫なのかよ」と心配しながらも「やったぜ宿代が浮くぜ」と喜んでしまうところが貧乏バックパッカーのよくないところ。

幸い、自宅にはオカマの妹さんと妹さんの4歳ぐらいの子供がいた。
襲われたりはしないだろう・・・たぶん。

居間で少しくつろいだ後、オカマの車でちょっと離れた公園へ向かうことになった。
なんか良い公園があるというのだ。

着いたところは簡単なゲートがあってゲートから先は木が生い茂っているのが見えた。日本で言ったら温帯植物園みたいな雰囲気。
入場料が必要で、2,000インドネシアルピアだった。日本円にしたらおよそ20円。どんなところかわからんけどまぁ20円ぐらいならと思って払って中へ入った。

密林のように茂ったマングローブの林の中にボードウォークがめぐらされている。
ふーんと思いながら歩いていた。時々オカマに写真を撮らされた。

なぜかしゃがんでポーズをとるオカマ。

さらに進むと、マングローブの林の中に動物がいて、よーく見たら・・・テングザルだ!マジかよ!?驚き!
テングザルはこのボルネオ/カリマンタン島にしか生息していない固有種で、鼻が天狗のようにでかいのでその名前がついた希少な動物だ。

ボルネオマレーシアのクチンという街にいた時、バコナショナルパークという国立公園があってそこならテングザルが見れるかもしれないらしかったのでバスで移動してそれなりに高い入園料を払って歩き回ってみたけどまったくテングザルに遭遇できなかった。

それが、それがたった20円でテングザルを見れるなんて・・・!
あっ、親子だ!写真じゃテングザルが小さくてあんまり見えなてすいませんが。

いやー、広角レンズじゃあちょっとうまくテングザルを撮れなくて残念。望遠レンズがあったらなあ。

しかしすごいな、この入り組んだマングローブの根は。植物の中でガジュマルの次にマングローブが好きだ。

おまけ。公園の出入り口でまっすぐ伸びて寝ていたネコ。

いやぁしかしテングザルとはいいもの見れた。

オカマの家で一夜を過ごしたり、またあちこち連れて行かれたりする話はまた次回で。


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