それは私がタイはバンコクにいた時のこと。私は安宿が集まるカオサンの中でもさらに最下層の安い宿に泊まっていた。
どれくらい最下層かというと、当時確か1泊80バーツで(約240円)で、ドミトリーには昼は寝てて夜は酔っぱらって帰ってくるだけの毎日を過ごす日本では全く使い物にならないようなクズのおっさんが2人長期滞在していて、ベッドには南京虫がいるようなところ。
さらに驚いたのには、一度チェックアウトして一か月ぐらいラオスとかベトナムとかまわってきてまた泊まったら、前回ベッドの下にあったゴミが一か月経っててもまだそのままだったこと。一体どれくらいの間掃除してないのかと。
まぁしかし貧乏バックパッカーの性分というか、ただ単に自分が貧乏性なだけなのか、その界隈で最も安い宿に泊まれてるって思うと少し満足感が湧いてしまうもので、私はその最下層の部屋にクズのおっさん達と一緒に滞在していた。
そして自分にはおっさん達をクズだと言う資格など全くなく、自分だって昼まで寝て屋台で安いご飯を食べてブラブラ歩いてまた宿でベッドに寝っ転がって宿に置いてあるマンガ読んだりして過ごしまた晩ごはんを屋台に食べに行きブラブラしてまたベッドに・・・という毎日を過ごしていた。
立地的にも難があって、この最下層の宿の目の前はレゲエバーだった。
夕方になるとオープンして深夜までレゲエミュージックがけたたましく流れ、ドミの開けっ放しの窓から容赦なくこちらの部屋まで流れて強制的に聞かされ、深夜までやかましい事この上ない。
けれど、なぜかオープン前の準備中の時だけはレゲエとは正反対の穏やかな女性ボーカルの音楽が流れてくるのだった。
毎日毎日その音楽を聴いてるうちに、その歌声が耳にこびりつくようになり、なんとかして誰が歌っているのか知りたいと思うようになった。
レゲエバーは目の前なので訪ねていけば話は早いのだけれど、レゲエバーの人達はみんなドレッドヘアで身体もデカいしタトゥーばりばり入ってるしで、気楽に話しかけられる雰囲気ではない。
幸いにも英語で歌われている曲だったので、その女性の歌声が流れてきたら必死に耳をそばだて単語一つだけでも聞き取ろうとした。
なんとなーくの単語を聞き取りネットで検索すると案外すぐ見つかった。
女性歌手の名前はImany(アイマニー)。アフリカ系のフランス人。気になっていた曲名は「You Will Never Know」。
力強さを感じさせる芯の通った歌声。少しハスキーだけど優しい歌声。
YouTubeで他にも何曲か聴いてみたがどの曲もいい。全体的に悲しい曲が多いせいか、なんか琴線に触れるものがある。
ある時、イヤホンで音楽をシャッフル再生で聴きながら街を散歩してた時、Imanyの「I Lost My Keys By」が流れて、うっかり泣いてしまった。
英語があまり得意ではない自分でも割と聞き取れて、歌詞の内容とImanyの歌声とで感傷的になってしまい、急にまるで心にぽっかり穴が空いたような感覚に陥り、歩けなくなって近くのベンチに腰をおろし少し泣いてしまった。
Imanyの歌が引き金になって、ふいに心のエアーポケットに落ちて「ここはどこだ?いま自分はどこで何をしているんだ?」と「ノルウェイの森」状態になってしまったのだった。
他にもスマッシュヒットになった「Don’t Be So Shy」を始め、「Slow down」、「Kiss in the Dark」、「I’ve Gotta Go」、「Where Have You Been」など良い曲ばかり。
音楽って、楽器の巧さだけじゃなくて、ましてや若い女の子を並べればいいだけじゃなくて、シンプルに良い歌声があればそれで充分なんだと思った。
疲れていたり、のんびり過ごしたい時などにImanyの歌声をぜひどうぞ。
【輸入盤】Shape Of A Broken Heart [ Imany ] 価格:1,861円 |
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